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YuzoOno.blog

小野裕三の公式ブログです。

「雨の生活」 (『俳壇』2015年11月号に掲載)

www.honamisyoten.com

雨の生活

 

海の歌に初速ありけり終戦日

星飛んで港栄える遠近法

雨立ち込めて昆虫展の奥に人

百年計画露草は雨降る単位

雨の生活くらやみ坂はやさしい目

 

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東京湾の、数奇な想像力

 

 東京湾は、不思議な場所だ。首都圏と呼ばれる地域はおおむねその湾を取り囲むように連なる。夜には、たくさんの灯がその海を縁取る。輝く工場群や高層ビル。縦横に行きかう高速道路。海に面した空港、公園、遊園地。光に切り取られたように、黒い海が浮かぶ。

 大戦末期に米軍が原子爆弾を開発した時、街に投下せずに東京湾に投下しようとする案があった、と聞いたことがある。街を極力破壊せずに軍部や政府に威力を誇示する手段だったというわけだ。戦後になって丹下健三の発表した都市開発プラン「東京計画1960」では、東京湾を横断する巨大な海上都市が構想された。そんな壮大な未来像を小出しに後追いするかのように、やがて東京湾には長大な海底トンネルが開通し、お台場や豊洲には新しい街が作られた。その海底トンネルと繋がる「海ほたる」は、東京湾の真ん中に海の中から忽然と現れたような不思議な建築物だ。建物というよりはもはや小さな「島」にも思え、都会的なものがくるっとねじれてリゾート地に繋がったみたいな飛躍がある。

かくして、東京湾という場所は日本の近代・現代史にまつわる数奇な想像力によって彩られてきた。それは、いわゆる俳句的な情緒とはいささか結びつきづらい想像力かも知れない。だが、だとすればだからこそ、それを読み解くための〝新しい情緒〟があってもいい気がする。そんなことを、東京湾という不思議な場所は考えさせてくれる。